復讐の館 表紙

復讐の館

1人目「運が悪かった、ただそれだけだ」

第五章:憎しみの継承

部屋に帰り着いた時、時計とけいは深夜一時を回っていた。

靴を脱ぐ気力もない。

玄関に座り込んで、しばらく動けなかった。

頭の中で剛山の声が繰り返される。

うんが悪かった。ただ、それだけだ。

何度も、何度も。

笑っていた。

あの顔で。

俺の人生をめちゃくちゃにしておいて、おごってやると言って。

怒りなのか、悲しみなのか……今までに感じたことのない感情が、胸の奥で煮えたぎっている。

翌朝、携帯が鳴る。

——東和証券。

画面を見た瞬間、電源を切った。

飯を食う気にもなれない。

水だけ飲んで布団に潜り込む。

でも眠れなかった。

天井を見つめたまま、時間だけが過ぎていく。

2日目。

カーテンを閉めると、部屋が暗くなる。

暗くていい。

暗い方がよかった。

棚の上の人形がこちらを向いている。

片目の空洞が、暗闇の中でも存在を主張していた。

何かを訴えているような、その視線から目が離せなかった。

3日目。

怒りが消えなかった。

眠れなかった。

飯も食えなかった。

剛山を、絶対に許さない。

その言葉が頭の中ではじけた瞬間、視界が暗くなった。

見覚えのある拷問器具ごうもんきぐ

見覚えのある、棚に並んだ数々の人形。

床に、両手足をくさりでがんじがらめにされた女。

夢の中で見た、あの悪女あくじょだ。

その前に立つのは、その悪女に殺されたはずの女。

片目から血をにじませ、この世のものとは思えない憎悪ぞうおをその顔に宿している。

夢の続きなのか、それとも別の何かなのか。

考える余裕もなく、俺はただそこに立っていた。

するどい怒りの眼差しと、右手ににぎられたするど千枚通せんまいどおし。

女がゆっくりと悪女へ歩み寄る。

「な、なぜそなたが……」

悪女の顔がゆがむ。

震える声。

「ここは……ここはどこだ。なぜわらわがくさりで——」

「お前だけは、許さない」

静かな声。

でもその言葉の奥に、全てがまっている。

"――グサッ――"

一瞬——迷いなく悪女の目に千枚通せんまいどおしが刺さる。

「ひっ——」

悲鳴が館に響く。

悪女がくさりを引きちぎろうともがく。

でも動けない。

「ち、違うのです。わらわは、ただ——」

女は聞いていなかった。

棚から湯呑を取り、附子ぶしを取り出す。

静かに、丁寧ていねいに、粉を溶かしていく。

その手は一切震えていない。

「お待ちを。お待ちくださいまし。わらわが悪うございました。何でもいたします。命だけは——」

目が、一瞬悪女に向く。

感情のない、怒りでもにくしみでもなく、ただうつろな目。

それがかえって恐ろしかった。

開口器具かいこうきぐが悪女の口に差し込まれる。

「んっ——んんっ——」

声にならない悲鳴。

湯呑が傾けられ、附子ぶしが喉の奥へ流し込まれる。

しばらくして、悪女の体が震え始め、じわじわと毒が回っていく。

体が弓なりに反り返り、泡を吹きながら床に崩れ落ち、くさりが、ゆっくりとゆるんでいく。

女がゆっくりと振り返る。

片目から血をにじませたまま、こちらを見ていた。

怒りの残り火が、その目の奥で燃えている。

「そなたも……復讐フクシュウを、望むか?」

声は静かだった。

でもその言葉の重さが、全身に染み込んでくる。

俺は、女の目をじっと見て、ゆっくりと深く、にくしみを訴えるかのようにうなずいた。

黒猫が、闇の中で目を光らせていた。