復讐の館 表紙

復讐の館

1人目「運が悪かった、ただそれだけだ」

第六章:鉄の処女アイアンメイデンと時計

視界が広がると、俺は古びた鉄の門の前に立っていた。

門に手をかけ、あの館へと向かう。

石畳を踏んで歩く。

足音が館に吸い込まれていく。

扉を開いた瞬間、聞き覚えのある、この世で一番不快な声が聞こえた。

「な、なんだここは。おい、誰かいるか。頼む、ここから出してくれ」

声の先には扉が開かれた鉄の処女アイアンメイデン

扉の中で両腕両足をくさりで固定され、身動きの出来ない状態でとらわれている剛山。

顔は青ざめ、額に汗がにじんでいる。

俺を見た瞬間、剛山の目付きが変わる。

いつもとは違う、すがるような目線。

「杉本——お前か。助けてくれ。頼む、助けてくれ」

返事をしなかった。

「チッ」

舌打ちをする剛山。

振り返ると、やかたあるじがいた。

深くフードを被り、顔が見えない。

その腕の中に、黒猫が収まっていた。

金色こんじきの目がこちらを見ている。

「久しいな」

子供とも大人ともつかない、性別すら判断のつかない、あの時と同じ不思議な声。

「お前に伝えることがある」

黒猫を抱いたまま、ゆっくりと近づいてくる。

復讐フクシュウを果たした者の魂は、人形の中に幽閉ゆうへいされる。永遠に。二度と外には出られない。苦しみの中で、ただ存在し続けることになる」

静かな声で、脅しでも警告でもなく、ただ事実を告げるような口調で。

「それでも、望むか」

沈黙が館を満たした。

俺は、コクリとうなずいた。

黒猫が、小さく鳴いた。

「おい、杉本。何の話をしてるんだ。俺を出してくれ。頼む」

剛山の声が響く。

俺は、剛山がとらわれている鉄の処女アイアンメイデンの前に立つ。

「なぜですか」

自分の声が、妙に落ち着いて聞こえる。

「なぜ、俺だったんですか」

剛山の目が泳ぐ。

「な、何の話だ。俺は何も——」

ギイ――――。

低い音を鳴らし、鉄の処女アイアンメイデンの扉が、わずかに動く。

剛山の顔が強張る。

「な、なんだ。おい、なんだこれは」

「なぜ、俺だったんですか」

もう一度、同じ言葉を繰り返した。

「し、知らん。お前が勝手にやったことだろ。俺は関係——」

―ギイ―――。

また扉が動く。

剛山の肩に、とげの先端が触れる。

「いっ——」

「わ、わかった。わかった。話す。全部話す」

剛山の声が裏返った。

「俺が書類を書き換えた。根回しもした。俺の地位のためにお前には犠牲になってもらった」

言葉が溢れ出す。

――ギイ――。

「な——なんで閉まるんだ。話してるだろ。話してるのになんで——」

扉はゆっくりと、ゆっくりと閉まっていく。

「やめてくれ。頼む。家族がいるんだ。子供がいるんだ。頼む、杉本——」

杉本は唇を噛み締める。

「それが何だ。俺にもいる。生活を切り詰めて、俺のために全てを注ぎ込んでくれた親父とお袋が。……大切な家族が俺にもいる」

汗だくで暴れ狂う剛山。

「杉本。お前とは長い付き合いだろ。飯も食った。クラブにも連れていってやった。頼む、助けてくれ——」

「全てを押し付けたお前を助ける? 俺が? お前を?」

鉄の処女アイアンメイデンの扉を、後押しするかのように手で押す杉本。

「す、すまない。本当にすまない……。全て俺がやったことだと認める。だから、ここから出して——」

―――ギイ―。

「いやだ。いやだ、いやだ——」

――――ギイ。

扉が閉まっていく。

とげが、少しずつ体に食い込んでいく。

剛山の声が、叫びに変わった。

それでも、扉は閉まり続ける。

やがて、鉄の処女アイアンメイデンが完全に閉じた。

一瞬の静寂せいじゃく

鉄の処女アイアンメイデンの扉から、ゆっくりと血が溢れ始める。

扉の隙間すきまから、床へ、静かに広がっていく。

館の主がゆっくりと近づいてきた。

黒猫を抱いたまま、口を開く。

「あの者の魂は無へ。永遠に苦しみの中を彷徨さまようことになる」

視線が、俺に向いた。

「そしてお前の魂は——」

俺はそれを遮るように、左手首を見た。

親父が送ってくれた時計とけい

あの封筒を渡してくれた時のお袋の顔が浮かんだ。

「ありがとう」

声が震えた。

「ごめん」

涙が、床に落ちた。

その瞬間、体がふっと軽くなる。

全身をとげに貫かれたうまの人形が、かすかに揺れた。

館の主が口を開く。

××ك×××ه××××ق×××××××ن××××م××××

しばらくの沈黙が続く。

悲しみをたたえた表情で、館の主は、再び呟く。

「……今回も同じ結果だったか」